ルパン三世 & something

大好きなルパン三世、他、色々なことを気ままに綴ってます♡

張りと意気地の吉原 from 『べらぼう』/ 地歌『新娘道成寺』

今年のNHK大河ドラマ『べらぼう』は江戸時代中期の話で、描く舞台は、主に色里「吉原」と政治の場の江戸城だ。

遊郭吉原では、ヒロインの花魁 ‘花の井‘ を小芝風花さんがとても魅力的に演じている。彼女の艶やかな品のある声もまたステキだ♡


以前、私は、箏・三絃の教師披露舞台で地歌箏曲『新娘道成寺』を弾くことになり、これを三絃で演奏した。この歌詞は、吉原ほか色里の世界を描いたものだった。演奏にあたって、古語辞典で調べたり出来得る限り解釈の努力をしたが、当時は手軽にSNSで調べることも出来ず、短期間でちょっと特殊なこの世界のことを調べるには限界があり、最後は歌詞に感じることからの想像でまかなったものだ‼︎
(前回「姫鞠さんの演奏スタイル」のところでも書いたが、その時はそれで良かったのかなと思っている。)


この曲の歌詞の中でも、
♪ 張りと意気地の吉原♪
という言葉が、一番長く印象に留まった。多分「粋」にも通じる「意気地」を「いきじ」と歌い、ここは見得を切る気分で歌うといいように感じていた。
なお、この一節の直前は、
♪ 恋のわけ里 数へ数へりゃ 武士も道具を伏せ編笠で ♪
とあり、吉原へ通う時の独特な作法が編み込まれている。

ドラマ『べらぼう』でも、「張りの吉原」という言葉が時折り登場しているね。


自分としては長らく離れていたこの曲だが、今、改めて『新娘道成寺』の歌詞を読み返してみると、人生の無常観にも通じるような、なかなかに深い意味が全編に込められているのを知る。

♪ 鐘に怨みは数々ござる♪
で始まるこの歌。その鐘は、
諸行無常と響くなり、、
 是生滅法(ぜしょうめっぽう)と響くなり♪
と続く。

そして色里の男女の機微については、
♪ ただ移り気な どうでも男は悪性者(あくしょうもの) ♪
と言うかと思えばその先で、
♪ 〜 どうでも女子(おなご)は悪性な ♪
と呼応し、女も負けてないのであった!

歌詞は全体を通じて、掛け言葉あり韻を踏むところありと言葉遊びもふんだんに見られ、江戸風に粋に仕上がっている。


遊女とは主に身売りされてきた娘達だったので、色里はとても闇深いところではあったが、この歌詞からは、ただ嘆くばかりではなく、その中でしたたかに精一杯生き抜いた遊女達の意気が感じられ、せめてただただ救いではある。もっとも、意気がってでもいなければ逆に運命に翻弄されてしまう日々だったのかもしれない、、


『べらぼう』の作中、少年唐丸の失踪で落ち込む蔦重(つたじゅう)に対して、
「真(まこと)のことが判らないなら、出来るだけ楽しいことを考える。それがわっちらの流儀だろう?」 
と、花魁 (おいらん) ‘花の井’ が言う。
彼女の言動はいつも前向きで聡明、活力があり、見る側が逆に勇気づけられ、苦界の吉原の里にあって目を惹く魅力があるのだ。


〈この先、花の井についてネタバレ注意〉

病や過労で平均寿命は弱冠22才ほどだったと言われる遊女の世界だが、実在のモデルであるこの花魁 ‘花の井’ の場合はその先で、身請けによってこの苦界を出た稀な例の一人だった。
彼女のその後は諸説あるようだが、本作の描かれ方の小芝花魁を見る限り、囲いのある廓(くるわ)から江戸市中へと生きる世界が移った後も、きっと自分を見失わず、その時々の判断も鋭く、見事に生を全うしたことだろう と信じる♡